-----------------------------------------------------------「萼紫陽花」


「萼紫陽花」


僕が生まれたのは梅雨の終わりの、

アジサイもあざやかだった色彩を落とし

小さな花弁のひとつひとつが瑞々しさを失いはじめた頃。

この花の季節の終わりを感じるとき、

いつも僕は言いようのない寂寥感にとらわれて、

このまま夏が来なければいいのに、と思ってしまう。


そんな中、誰の目にもとまらないほどの小さなひとすみに、

梅雨が終わるその時まで

静かに咲き続けるガクアジサイの一枝があることを、

僕は密かに知っている。

そのひとすみだけ、まるで時間の流れが止まっているように、

不思議といつも雨が匂うような錯覚を覚えるのだ。



ガクアジサイ。 花言葉は、『謙虚』。



少しでも長く咲いていたくて、花々はここで息を潜めているのだろうか。

いまだしっとりと露をたたえた花弁は

静かに小さな世界を形づくり、全身で夏の到来を拒んでいるように見える。



謙虚ながら、それでもしたたかな生命力。

相反するようにも思える資質が混在している、

そのアンバランスな存在感に

僕は惹かれているのかもしれない。



だから、毎年誕生日の頃に

この一枝に会うためにひとりここを訪れる。

「あなたのような生き方ができたらいいのに。」

つぶやく僕の前で、花は何も答えない。


どんよりと沈む空。

垂れ込めるこの厚い雲が切れたら、

もうそこにはきっとまぶしい夏空があるのだろう。

照りつける剥き出しの太陽光線も、

きらきらとはじけ飛ぶ水しぶきも、

むせかえるようにあざやかな緑も、

まるで今の僕らの時間そのものみたいで

心惹かれる気持ちを抑えることは難しいけれど、

でも、今はもう少しだけ、ここにいよう。

ほんの僅かの間だけ、

雨の余韻をこの花のそばで静かに感じていたい。

僕は、そういう季節に生まれたのだから。



今日、僕は十七歳の誕生日を迎える──────。



(画像は容量オーバーのため倉庫行き)

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data:Painter6J(水彩)〜Photpshop5.0J(加工)
SSについて:
あー。調子に乗り過ぎましたな。なんかつい書きたくなってしまって。
プレイ中もりりんは最もダメなタイプだったはずなのに、時間の経過ってコワイわ〜。 
 

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